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東京高等裁判所 昭和52年(行ス)12号 決定 1977年12月13日

抗告人 丁甲守

相手方 広島入国管理事務所主任審査官

訴訟代理人 藤村啓、久保田誠三 ほか二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、

「一、原決定のうち、抗告人の申立を却下した部分を取消す。

二、相手方が抗告人に対し昭和五二年四月一一日付でなした外国人退去強制令書発布処分に基く執行は、収容部分につき本案判決確定に至る迄これを停止する。」

との裁判を求めたが、その理由とするところは、別紙抗告理由書記載のとおりである。

二  抗告人は先ず、外国人退去強制令書に基く執行は送還部分と収容部分とに明確に区別し得るものではなく、送還の執行を停止すれば、収容の執行も当然停止されるべきであると主張するが、右令書に基く執行に収容部分と送還部分の存することは出入国管理令五二条の規定により明らかであり、右収容部分は当該外国人の送還のための身柄確保と出入国管理令において定められた在留資格制度より生ずる右外国人の日本における在留活動を禁止することを目的とするものであつて、右両部分の執行の目的が異るのであるから、その執行の停止の是非についても別個の見地から検討するのを相当とすべく抗告人の右主張は失当である。

次に抗告人は、その収容所における収容(本件収容という)は甚だ苦痛であり、かつ抗告人の家庭には扶養すべき二児があり又母及び兄は病身であるから本件収容によつて抗告人の家庭は破壊され、その損害は回復不可能であると主張するが、一般に収容によつて何等かの精神的、肉体的苦痛を被ることのあるのは収容の性質上已むを得ないところであり、特に抗告人が特段の苦痛を被つていることを疎明すべき資料はなく、又一件記録によると、抗告人の母は抗告人が殺人罪等により懲役刑に服役した直後である昭和四七年三月一五日から生活、住宅、教育、医療の各扶助を受けて生活を続けていることが疎明され、本件収容によつて抗告人の家庭が直ちに破壊されるということはできないので右抗告人の主張は採用することができない。

そして一件記録を精査するも、その他抗告人が本件収容によつて回復困難な損害を被ることを疎明すべき資料は存しない。

よつて抗告人に対する外国人退去強制令書発布処分のうち収容部分の執行について申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法四一四条、九五条、八九条を夫々適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 吉岡進 前田亦夫 太田豊)

抗告理由書<省略>

【参考】第一審決定(東京地裁昭和五二年(行ク)第六二号(本案昭和五二年(行ウ)第二八四号)昭和五二年九月二一日決定)

主文

一 被申立人が申立人に対し昭和五二年四月一一日付でなした外国人退去強制令書発付処分のうち、送還部分は本案判決が確定するまでその執行を停止する。

二 申立人のその余の申立を却下する。

三 申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一 申立人の本件申立は、「被申立人が昭和五二年四月一一日付で申立人に対してなした外国人退去強制令書発付処分に基づく執行は、本案判決確定にいたるまでこれを停止する。申立費用は被申立人の負担とする。」というにあり、被申立人は本件申立を却下する旨の意見を述べた。

二 本件記録によれば、申立人は、一九四二(昭和一七)年三月八日神戸市において父丁永基(昭和三四年死亡)と韓国人母朴善禮との間に次男として出生した外国人であるところ、昭和四六年一二月二二日岡山地方裁判所において殺人等の罪名により懲役六年の刑の言渡をうけ、昭和四七年一月六日以降岡山刑務所において右刑に服役中、広島入国管理事務所入国審査官、特別審理官によりいずれも出入国管理令二四条四号リに該当する者であるとの認定ないし判定をうけたので、法務大臣に対し異議申出をしたが、右申出は理由がない旨の裁決があり、次いで昭和五二年四月一一日付で、被申立人より本件外国人退去強制令書の発付処分をうけた。そこで申立人は昭和五二年七月一日右発付処分の取消しを求める抗告訴訟を提起し、右事件が現在当裁判所に係属中であること(当裁判所昭和五二年(行ウ)第二八四号退去強制令書発付処分取消請求事件)が認められる。

右認定事実によれば、申立人が本件外国人退去強制令書に基づき国外送還の執行を受けるときは、申立人は本案訴訟追行の目的を失い、また、たとえ右訴訟で勝訴判決を得ても右裁判の利益を事実上享受することができず、従つて回復の困難な損害を被ることは明らかであるから、これを避けるため右令書発付処分のうち国外送還の部分についてその執行を停止する緊急の必要があることが一応認められる。

三 被申立人は、本件申立は本案について理由がないとみえるときにあたると主張する。

なるほど疎明によれば、申立人が出入国管理令二四条四号リに該当する者であることは認めえないわけではないが、そうであるからといつて、本件退去強制令書発付処分が違法とされる余地がまつたくないというわけのものでもなく、本件において本案の審理を経ない現段階で、全疎明資料をもつてしても未だ本案につき理由がないことが明らかであるとは認めるに足りない。結局本案の理由の有無の判断は今後の審理をまつて決するより他ないものというべきである。

被申立人は、さらに、本件令書に基づく送還の執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると主張するが、本件に顕われた全疎明によるもにわかに右主張を認めることはできない。

四 申立人は、本件令書に基づく収容の執行停止をも申立てるのであるが、申立人は現在大村入国者収容所内に被収容中のところ、右収容の続行により回復困難な損害が生ずるおそれは本件記録に顕われた全疎明資料によるもこれを認めることはできない。

五 以上の次第で、申立人の本件申立は、本件令書発付処分のうち、送還部分につき本案判決が確定するまでこれを停止することを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の申立は失当であるからこれを却下することとし、申立費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九二条但書を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 安部剛 山下薫 佐藤久夫)

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